
第216回
暑さをしのぐ京の知恵

第216回
暑さをしのぐ京の知恵

京阪的京都ツウのススメ
第216回 暑さをしのぐ京の知恵
暑さをやわらげる
様々な涼のかたち
周囲を山に囲まれた盆地のため、夏は厳しい暑さが続く京都。
暮らしに涼を取り入れる工夫や、いにしえの人々の夏の過ごし方についてらくたびの若村亮さんがご紹介します。
京都の夏の基礎知識
其の一、
山に囲まれた京都の夏は、盆地特有の蒸し暑さで知られています
其の二、
京町家には、先人の知恵による暑さをしのぐ工夫が見られます
其の三、
納涼床(のうりょうゆか)が行われる鴨川沿いは、昔から夕涼みの場でした
平安時代から続く厳しい暑さ
京都は三方を山に囲まれた盆地のため湿気が溜まりやすく、夏は気温が高くなり、蒸し暑いのが特徴。『源氏物語』には平安貴族が夏に涼を取る場面があります。また鎌倉時代後期、京都に生まれた歌人・兼好法師(けんこうほうし)は『徒然草(つれつれぐさ)』の中で「家のつくりようは夏を旨(むね)とすべし(家は夏の暮らしやすさを優先に考えるべき)」と書きました。細長い造りの伝統的な京町家には、先人たちが長い時間をかけて見出した、夏を快適に過ごす工夫が見られます。
今も昔も夕涼みは川べりで
京都の夏の風物詩が納涼床です。江戸時代には祇園祭の行事のひとつとして鴨川で納涼床が行われたことがありました。現在は、二条から五条の間の川沿いに納涼床が設けられ、川から吹く風を感じながら食事を楽しめます。また、夏に食べられる和菓子も水辺を表現した見た目や、つるんとした口当たりなど、涼を感じさせる工夫が凝らされています。こうした暑さをしのぎ、涼を楽しむ文化は、今も京都の夏の暮らしに根付いています。
京町家
風通しを良くし、夏のしつらえに
京町家の特徴のひとつが「うなぎの寝床」と言われる細長い敷地に立っていること。限られた空間に風を通す工夫が施されています。
風を通す通り庭
京町家には、入り口から奥に向かって「通り庭」という土間があります。通り庭には、表通りに面した「見世(店)庭」や、おくどさん(かまど)や流し台のある「走り庭」が一列に並び、風の通り道になっています。
緑鮮やかな庭
奥の座敷に面して坪庭も設けました。石灯篭や手水鉢があり、植栽の緑が美しい庭は見て涼を感じるだけでなく、通風や採光の役割もありました。
涼感をもたらす打ち水
家の前の通りや坪庭に水をまく「打ち水」は、まいた水が蒸発する際に地面の熱を奪うため温度が下がり、涼しさを感じます。また、冷たい風と温かい風の温度差が生まれることで空気が動き、家の中を風が通り抜けるとも言われています。
夏を迎える前に建具を入れ替え、夏のしつらえに替える習慣もあります。襖(ふすま)や障子を外し、竹やヨシを編んだ簾(すだれ)や、簾をはめ込んだ葦戸(よしど)に替えて、風が通るようにします。畳には、木や竹を編んだ網代(あじろ)や、ひんやりとした肌触りの籐むしろを敷き、涼やかに過ごします


夏を迎える前に建具を入れ替え、夏のしつらえに替える習慣もあります。襖(ふすま)や障子を外し、竹やヨシを編んだ簾(すだれ)や、簾をはめ込んだ葦戸(よしど)に替えて、風が通るようにします。畳には、木や竹を編んだ網代(あじろ)や、ひんやりとした肌触りの籐むしろを敷き、涼やかに過ごします

納涼床
鴨川でにぎやかに夕涼み
江戸時代の鴨川は今よりも幅が広く、四条河原の中州は芝居小屋や茶店が並ぶ、にぎやかな場所でした。やがて四条河原を中心に三条や五条の川沿いは納涼の場になり、浅瀬や中州に床机(しょうぎ:折りたたみ式の腰掛け)が並べられ、人々は夕涼みを楽しみました。現在の納涼床は、鴨川の西側のみですが、明治時代までは東側にも並んでいました。

広重『京都名所之内 四条河原夕涼』 国立国会図書館デジタルコレクション
江戸時代、下鴨神社の参道に広がる糺(ただす)の森も、鴨川と並ぶ京都の人気の納涼スポットでした。『都林泉名勝図会』には、糺の森を流れる川の両岸に茶店が並び、川床で涼を楽しむ人々が描かれています

『都林泉名勝図会』より
「河合納涼(糺の納涼)」
国際日本文化研究センター所蔵
和菓子
季節が繊細に表現される京菓子。夏の京菓子には、涼を感じさせるものや夏らしさを表現したものがあります。
水ようかん
青竹に流し込んだ水ようかんは夏の贈答品の定番。青竹を包んでいる笹の香りも爽やかです。

琥珀羹(こはくかん)
寒天に砂糖などを加えて煮詰め、冷やして固めたお菓子。水中に泳ぐ金魚や星空などで夏の景色を表現し、透明感あふれる見た目で涼を感じさせます。

夏の朝の茶事
千利休が確立させ、京都で育まれた茶の湯文化。客を招いて懐石料理や濃茶、薄茶を振る舞う茶事には、涼しい早朝に開始する夏の朝の茶事もあります。掛物(掛け軸)や茶花などを夏のしつらえにし、口が広くお茶が冷めやすい平茶碗を使うなど、涼感で客をもてなします。
『源氏物語』に書かれた都の夏
『源氏物語』の第26帖「常夏(とこなつ)」には、夏の暑い日に光源氏が六条院の釣殿(つりどの)で涼む場面があります。釣殿とは、池に臨む貴族の屋敷の一部で、釣りや舟遊びなどを楽しんだり、水辺で涼むための場所です。しかし、この場面では「水辺にいても、こんなに暑くては管弦の遊びを楽しむ気にもならない」と書かれています。
「常夏」では、釣殿に集まった人々が、氷水を飲んだり、米に水をかけた水飯を食べると書かれています。夏の貴重な氷は、都の郊外に設けられた氷の貯蔵庫・氷室から運ばれたものと考えられます

ナビゲーターらくたび 若村 亮さん
らくたびは、京都ツアーの企画を行うほか、京都学講座や京都本の執筆など、多彩な京都の魅力を発信しています。
制作:2026年08月
