
第214回
京都の食の面影

第214回
京都の食の面影

大成京細見繪圖:洛中洛外町々小名(国際日本文化研究センター所蔵)
京阪的京都ツウのススメ
第214回 京都の食の面影
町名からたどる京都と食
京都にある様々な町名や通り名には、米や塩、魚などが付く、食にまつわるものがあります。
昔の暮らしを思い起こさせる町名や通り名をらくたびの谷口真由美さんがご紹介します。
町名の基礎知識
其の一、
京都には食の歴史を背景にした様々な町名が生まれました
其の二、
魚や米などの、食材が町名になったところもあります
其の三、
町名から、当時の暮らしや商いの様子をうかがい知ることができます
町名に刻まれるまちの歴史
通りが東西南北に交差する京都市中心部では、住所を表示する際に「烏丸通御池上る」のように、通り名の組み合わせと進む方角を示した上で、町名を加えるのが一般的です。京都市の町名には、長刀鉾(なぎなたぼこ)町のように祇園祭の山鉾にちなんだものや、鍛冶屋町や船頭町のように同業者が集まっていたと考えられるものなど、その町の歴史や職業を伝えるものが数多くあります。食にまつわる町名もそのひとつで、例えば錦市場周辺には昔からの魚市場に由来する町名が残ります。
通り名にも商いの記憶が残る
江戸時代の京都には川魚専門店が多く、鴨川や高瀬川の近くには、川魚を放した生簀(いけす)にちなんだ町名があります。高瀬川沿いには高瀬舟で運ばれた食材に由来する町名も残ります。また町名だけでなく、青物や菓子の問屋が立ち並んでいたとされる問屋町通など、食に関係する通り名も残っています。食の歴史を伝える町名や通り名から、昔の京都の町並みに想像を巡らせてみませんか。
町の名前から見る様々な物語
江戸時代の3つの魚市場
三店魚問屋
(さんたなうおどんや)
上京区、中京区、下京区には、江戸時代に幕府が公認した「三店魚問屋」と呼ばれる3カ所の魚市場に由来する町名があります。
上之棚(かみのたな)
〈上京区〉
京都府庁の南西部を東西に走る椹木(さわらぎ)町通に東魚屋町があります。西隣の西山崎町もかつては市場があり、西魚屋町と呼ばれたそうです。
錦之棚(にしきのたな)
〈中京区〉
延暦年間(782~806年)には魚の市があったと言われる錦小路。東魚屋町、中魚屋町、西魚屋町があり、江戸時代から続く魚市場の歴史を物語っています。
五条之棚
(ごじょうのたな)
〈下京区〉
五条之棚は現在の六条通にありました。そのため六条通は魚棚(うおのたな)通とも呼ばれます。通り沿いには今も東魚屋町、西魚屋町が残ります。

江戸時代の京都の地誌に描かれた錦小路
『京雀』(佛教大学附属図書館所蔵)

五条之棚は、もともとは七条通のひと筋南の通りで開かれていた市場が移転してきたもの。その名残で七条堀川南西には下魚棚と付く町名や下魚棚通が残っています

川沿いの生簀(いけす)が町名に
川魚料理が親しまれてきた京都。鴨川や高瀬川のそばに、生簀に由来する町名が残ります。
上生洲(かみいけす)町
〈上京区〉
鴨川に架かる荒神橋の南西部で、川魚を放した生簀があったと考えられています。
東生洲(ひがしいけす)町、
西生洲(にしいけす)町
〈中京区〉
高瀬川沿いには生簀を設けた川魚料理店が何軒もありました。江戸時代の図会には、店で料理や酒を楽しむ人々が描かれています。

『都名所図会』より「生洲(生簀)」(国際日本文化研究センター所蔵)

四条河原町交差点の近くに米屋町や塩屋町があります。高瀬舟の船着き場(舟入址)が近くにあったことから、荷揚げされた食材や物資に由来すると考えられます。近くには船頭町もあります

都の食文化を伝える町名
西賀茂氷室(にしがもひむろ)町
〈北区〉ほか
平安時代の氷を夏まで貯蔵する施設・氷室に由来する町名がいくつかあります。暑い季節、宮中の人々は献上された氷を口にしたり、かき氷のように削って楽しみました。
昆布屋(こんぶや)町
〈中京区〉
京都御苑の南側にある小さな町。昆布は宮中に献上される貴重品であり、京都御所や公家の屋敷の近くに昆布を扱う店があったと考えられます。
饅頭屋(まんじゅうや)町
〈中京区〉
室町時代、饅頭屋で甘い餡入り饅頭の元祖「塩瀬(しおせ)」が店を構えた場所です。塩瀬饅頭は評判を呼び、室町幕府8代将軍・足利義政から「日本第一番本饅頭所林氏塩瀬」という看板を賜りました。現在は東京の御菓子処「塩瀬総本家」がのれんを受け継いでいます。
城下町だった伏見にも魚屋町や塩屋町があります。銀貨を鋳造する銀座に由来する銀座町や、大名の名前に由来する桃山町正宗などの町名もあり、様々なモノや人が集まっていたことがわかります
食にちなんだ通り名
麩屋町(ふやちょう)通
豊臣秀吉の都市改造で整備され、平安京の富小路が麩屋町通と名付けられました。この辺りに麩や豆腐の店が多かったことに由来します。
問屋町(といやまち)通
五条大橋の東側から南へ伸びる通りで、青物や菓子、干物などの問屋が軒を連ねていて、朝には市場も開かれていました。
京都と福井県小浜市を結ぶ道は鯖街道と呼ばれます。若狭湾で水揚げされたサバはこの道を通って都に運ばれ、ハレの日(祭りや行事の日)のごちそうである鯖寿司に使われました。

※町名の由来には諸説あります

ナビゲーターらくたび 谷口 真由美さん
らくたびは、京都ツアーの企画を行うほか、京都学講座や京都本の執筆など、多彩な京都の魅力を発信しています。
制作:2026年06月
