TCFD提言に対応した開示

(2023年5月31日情報更新)

京阪グループ各社では、2030年までにより良い世界を目指すSDGsの達成に貢献するべく「BIOSTYLE PROJECT」に取り組んでいます。指針のひとつに「GOOD for Earth(地球に良いか)」を掲げ、環境や地球に良い取り組みを打ち出してきました。なかでも地球温暖化防止策は世界的に重要性が急速に高まっており、私たちの事業継続のために温室効果ガスの削減は重要な経営課題であるという認識のもと最優先で取り組んでまいります。

また、京阪グループは「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同し、適切な情報開示を進めてまいります。TCFD提言は、企業等に対し、気候変動関連リスク及び機会に関する、(1)ガバナンス、(2)戦略、(3)リスク管理、(4)指標と目標の項目について開示することを推奨しています。

(1)ガバナンス 気候変動リスク及び機会に関する組織のガバナンス
(2)戦略 組織の事業・戦略・財務計画に対する気候関連リスク及び機会に関する実際の影響及び潜在的影響
(3)リスク管理 気候変動関連リスクを識別・評価・管理するために用いるプロセス
(4)指標と目標 気候変動関連リスク及び機会を評価・管理するのに使用する指標と目標

(1)ガバナンス

環境経営推進体制

グループ全体で環境経営を推進していくために、取締役会の下に、京阪グループのESG推進と進捗管理をおこなう「サステナビリティ委員会」を設置しています。同委員会は、代表取締役社長COOを委員長とし、運輸、不動産、流通、レジャー・サービス業の各統括責任者である当社取締役などを委員としています。

また、「サステナビリティ委員会」のもとに「環境経営専門委員会」を設置し、同委員会において、脱炭素(削減目標設定・進捗管理、TCFDの枠組みに沿った開示の充実検討等)、廃棄物削減、水資源有効利用などについて、グループ戦略としての目標設定と進捗管理が必要な環境課題への対応を策定・推進しています。

同委員会の審議内容は「サステナビリティ委員会」における審議を踏まえ、原則年2回、取締役会に上程(付議または報告)いたします。

【環境経営推進体制】*矢印は報告の流れ

(2)戦略

将来の気候変動が当社事業へもたらす影響について、TCFDが提唱するフレームワークに則り、シナリオ分析の手法を用いて、2030年時点における外部環境の変化を予測し、分析を実施しました。

分析対象事業範囲の特定

当社グループの営業収益の約7割を占める運輸業(鉄道事業・バス事業)および不動産業(不動産販売事業・不動産賃貸事業)を分析対象と致しました。

シナリオ設定

TCFD提言では「戦略」の項目において「2℃以下シナリオを含む様々な気候関連シナリオに基づく検討」を行うことを推奨しております。本提言に基づき、以下の通りシナリオを設定し、各シナリオにおけるリスク・機会の分析を実施致しました。

想定する1.5〜2℃シナリオ(2℃以下シナリオ)の世界観

全世界が2050年カーボンニュートラルを目指した規制や政策を強化し、現状を上回る気候変動対策がなされ、気温上昇が産業革命前の水準から1.5〜2℃程度に収まるシナリオです。

  • 強化された規制や政策への対応コスト発生、再エネ由来の電力需要が高まることによる電力価格上昇等の移行リスクが増大する
  • 物理的リスクの増大も想定されるものの、4℃シナリオよりも程度が軽い

想定する4℃シナリオの世界観

現状を上回る気候変動対策がなされず、気温上昇が産業革命前の水準から4℃程度まで上昇するシナリオです。

  • 気温上昇による熱対策コスト増加、異常気象の激甚化による被害増加等の物理的リスクが増大する
  • 移行リスクの増大も想定されるものの、2℃以下シナリオよりも程度が軽い

リスク・機会の特定

当社グループ(分析対象事業)に関連するリスク・機会をTCFD提言の分類に基づいて特定し、顕在化時期と影響度を評価致しました。

凡例:【顕在化時期※1|影響度】
分類 リスク・機会の内容
運輸 不動産
移行リスク 政策・
法規制
炭素価格 【中期|大】
  • 炭素税の導入やエネルギー関連の税率引き上げにより各種コスト(操業・施設運営・原材料調達等)が増加する。
環境規制の導入 【中期|小】
  • バス営業において、CO2排出削減の観点からディーゼル車による営業規制が入り、EV車導入のコストがかかる。
-
炭素排出目標・政策 - 【中期|大】
  • 政府目標に従ったZEB・ZEH対応により、建築・修繕コストが増加する。
  • 低炭素化に対応困難な経年物件において排出クレジット等購入コストが発生する。
市場 エネルギーコストの変化 【短~中期|大】
  • エネルギーミックスの変化により電力・燃料コストが変動し、エネルギーコストが増加する。
評判 顧客の評判変化 - 【中期|未評価】
  • 環境対応が遅れた場合、低炭素化に消極的であると評価され、顧客が減少する。
物理的リスク 慢性 平均気温の上昇 【中~長期|小】
  • 気温上昇に伴い空調コストが増加する。
-
- 【中~長期|小】
  • 気温上昇に伴い建設現場における労働生産性が低下し工期遅延が発生する。
急性 異常気象の激甚化 【中期|中】
  • 大型台風等、気象災害の発生頻度が高まり、施設の損傷及び輸送停止に伴う損害額が増加する。
機会 エネルギー源 新規技術・低炭素エネルギー源の利用 【短~中期|大】
  • 省エネ・再エネ導入の推進により運営コストが削減される。
製品・
サービス
研究開発・イノベーションによる新規商品・サービスの開発 【短~中期|中】
  • 省エネルギー車両・電気バス導入によりメンテナンスコストが低減する。
【長期|小】
  • 座席指定サービス等の知見を活かした公共交通活用方法拡大により収益が増加する。
  • MaaS等の利便性向上により利用者が増加する。
-
消費者選好の変化 【長期|小】
  • 公共交通の環境優位性が評価され、利用者が増加する。
【中~長期|大】
  • 環境・災害対応の需要に応えることで資産価値が向上し収益が増加する。
市場 ステークホルダーの評判変化 【短~中期|未評価】
  • 環境対応の推進が株主・投資家・金融機関等から評価される。
公的セクターによるインセンティブの活用 【中~長期|未評価】
  • 脱炭素化の推進のため補助金制度が拡充される可能性がある。
  1. ※1短期:0~2年(直近)、中期:3~9年(2030年頃)、長期:10~30年(2050年頃)

財務インパクトの試算

設定したシナリオにおける客観的な将来予測データを入手できるリスク・機会項目について、定量的な財務インパクトを試算し、特に大きな財務インパクトが想定される主要項目を特定致しました。

試算の前提条件(試算に用いた主なパラメータ)
分類 シナリオ 2030年の想定値 試算に用いた将来予測データの出所
移行リスク 政策・
法規制
炭素税 1.5〜2℃ 140$
/t-CO2
IEA(国際エネルギー機関)
「WorldEnergyOutlook2022」
ZEB/ZEH基準の省エネ性能に適合する新築物件の割合 100% 国土交通省
「国土交通省環境行動計画2020年度点検概要について」
新築物件をZEB/ZEH基準の省エネ性能適合させることに伴うコスト増加割合 +5% (一社)日本建設業連合会
「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会説明資料」
※上記内のデータを基に推計
市場 電力単価の上昇分 +4.3円
/kWh
日本エネルギー経済研究所
「2030年・2050年の脱炭素化に向けたモデル試算」
RITE(地球環境産業技術研究機構)
「2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(中間報告)」
原油価格の上昇割合 -49% IEA(国際エネルギー機関)
「WorldEnergyOutlook2022」
天然ガス価格の上昇割合 -41% IEA(国際エネルギー機関)
「WorldEnergyOutlook2022」
物理的リスク 急性 洪水発生頻度の増加割合 4℃ +38% 国土交通省気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会
「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言」
※上記内のデータを基に推計
機会 製品・
サービス
2030年時点のEVバス普及率 1.5〜2℃ 5% 国土交通省
「輸送事業者の判断基準(案)について」
環境対応の需要に応えることによる賃料の上昇割合 +3.8% 日本不動産研究所
「第44回不動産投資家調査 特別アンケートⅡ」
※上記内のデータを基に推計
環境対応の需要に応えることによる販売価格の上昇割合 +6% 日本建築学会環境系論文集
「環境性能が集合住宅の販売価格及び中古取引に与える影響」
※上記内のデータを基に推計
主要項目の財務インパクト※2
分類 内容 シナリオ 2030年の財務インパクト試算結果
運輸 不動産
移行リスク 政策・
法規制
炭素税の導入やエネルギー関連の税率引き上げにより各種コスト(操業・施設運営・原材料調達等)が増加する。 1.5〜2℃ 1,389百万円/年 351百万円/年
政府目標に従ったZEB・ZEH対応により、建築・修繕コストが増加する。 - 1,543百万円/年
市場 エネルギーミックスの変化により電力・燃料コストが変動し、エネルギーコストが増加する。 225百万円/年 193百万円/年
物理的リスク 急性 大型台風等、気象災害の発生頻度が高まり、施設の損傷及び輸送停止に伴う損害額が増加する。※3 4℃ 119百万円/年 28百万円/年
機会 エネルギー源 省エネ・再エネ導入の推進により運営コストが削減される。※4 1.5〜2℃ 904百万円/年 38百万円/年
製品・
サービス
省エネルギー車両・電気バス導入によりメンテナンスコストが低減する。 146百万円/年 -
環境・災害対応の需要に応えることで資産価値が向上し収益が増加する。 - 2,510百万円/年
  1. ※2各事業において以下を対象として財務インパクトを試算
    運輸業 :京阪電気鉄道(株)、京阪バス(株)
    不動産業:京阪ホールディングス(株)、京阪電鉄不動産(株)、京阪建物(株)、(株)ゼロ・コーポレーション
  2. ※3自然災害が発生した場合について過去事例からの損害額増加分を試算
  3. ※4今後の事業拡大によるエネルギー使用量の増加分は加味せず、既存事業における2021年度のエネルギー使用量を元にした試算
シナリオ分析の結果と対応策
運輸 1.5〜2℃シナリオ

リスクとして、炭素税の導入によるコスト増加や、エネルギーミックスの変化によるエネルギーコスト増加の影響を受けることが見込まれます。

これらの影響を低減するために、省エネ効果が期待できる省エネルギー車両・電気バスの導入を推進致します。省エネルギー車両・電気バスの導入はメンテナンスコスト低減の機会創出にも繋がることも見込んでいます。加えて、公共交通の環境優位性が評価され利用者が増加する等、2030年時点での影響度は僅少であるものの長期の時間軸では機会の顕在化が見込まれる項目も認識致しました。

4℃シナリオ

リスクとして、大型台風や気象災害による輸送停止・ダイヤ乱れ、物損の影響を受けることが見込まれます。

異常気象については、今回分析をした2030年時点から、2050年、世紀末と時間の経過に伴いより一層激甚化していくことを認識しており、長期的な視点をもちながら、鉄道施設への浸水対策・洗掘防止対策等の実施、車両避難体制の強化等、これまで以上の危機管理体制やBCP体制の構築に努めていきます。

不動産 1.5〜2℃シナリオ

リスクとして、炭素税の導入よるコスト増加や、エネルギーミックスの変化によるエネルギーコスト増加が見込まれます。さらに、政府目標に従ったZEB・ZEH対応による建築・修繕コスト増加の影響も大きい見込みであり、設備の仕様・調達方法の見直しによる影響の低減を検討致します。

一方で、顧客・投資家の環境意識向上が追い風となり、環境対応によるオフィス用途物件の賃料上昇や住宅用途物件の販売価格上昇といった機会も見込まれるため、国等の補助制度も活用しながら、販売用建物のZEH化を含む環境対応、DBJ GREEN BUILDING認証等の取得、新規ビルの環境対応を推進致します。

4℃シナリオ

リスクとして、大型台風や気象災害による保有物件損傷の影響を受けることが見込まれます。

影響度は運輸業に比べると低いものの、2030年以降も時間の経過に伴ってより一層激甚化していく異常気象に備え、テナント・居住者とも連携した危機管理体制の構築やBCPの継続的な見直し・強化に努めていきます。

当社グループの長期経営戦略(目標年次2030年度)では、「社会的価値と経済的価値を両輪で創造する「BIOSTYLE 経営」の推進」をテーマとし、主軸戦略のひとつ「地球環境保全」において、「CO2排出量削減目標の達成に向け、省エネの徹底や新技術の導入によるエネルギー使用量の削減を着実に進めるとともに、太陽光発電等創エネの推進や再エネの調達も検討、あわせて、脱炭素社会で選ばれる商品・サービスの開発にも取り組む」ことを基本方針として掲げております。

この基本方針のもと、リスクの極小化と機会の極大化に向けた取り組みを進め、レジリエンスの向上に努めていきます。

(3)リスク管理

特定された気候変動に関するリスクに対しては、「環境経営専門委員会」を中心に、回避や軽減等の対応策検討を行い、検討内容は「サステナビリティ委員会」における審議を経て取締役会に上程します。また、定期的に気候関連リスク・機会の見直しを実施します。

(4)指標と目標

京阪グループでは、2023年3月に策定・公表した長期経営戦略において、主軸戦略の1つに「地球環境保全」を掲げ、「省エネの徹底・新技術導入」「創エネの推進(太陽光発電設備等の導入)」「再エネの調達」を通じて、CO2排出量の削減および脱炭素社会で選ばれる商品・サービスの展開を推進しています。CO2排出量の削減については、京阪グループの中長期的な環境計画「BIOSTYLE環境アクション2030」において、「2050年度のCO2排出量実質ゼロを目指して、2030年度のCO2排出量46%削減(2013年度比)」の数値目標を設定しています。

  • CO2排出量削減目標は、省エネ法定期報告の対象となる特定事業者9社(京阪ホールディングス(株)、京阪電気鉄道(株)、京阪バス(株)、京阪建物(株)、(株)京阪流通システムズ、(株)京阪百貨店、(株)京阪ザ・ストア、(株)ホテル京阪、京阪ホテルズ&リゾーツ(株))のCO2排出量(Scope1、Scope2)を対象としています。2013年度の同9社の排出量は261,134tでした。