こころまち つくろう 活動レポート
かつて「水の都」と呼ばれた大阪には日本中から観光船や物流船が集い、大いににぎわっていました。そんな水と親しむ文化を今に受け継ぎ、再生を牽引してきたのが京阪グループの大阪水上バスです。大阪市内で4つの観光船を運航する大阪水上バスは、水都大阪を満喫できるクルーズをはじめ、地元の方を含むお客さまに日常的に乗って楽しんでいただける船を目指し、イベントクルーズの運航にも注力しています。また、そうした時代にふさわしい水上交通の活性化に取り組むほか、水辺を中心にした景観づくりやまちづくり、水辺のくらしの魅力創造までを幅広く手がけています。さらに55年ぶりに開催された大阪・関西万博においては、国内で初めて水素燃料電池船を旅客運航。
水都大阪を象徴する大阪水上バスの挑戦をご紹介します。
八軒家浜の復興と
にぎわいの再生を仕掛ける大阪水上バス

京阪電車・天満橋駅前の大川のほとり・八軒家浜は、平安時代には渡辺津と呼ばれ、京都から人々が船で下って熊野古道へ発つ起点であり、大阪の水運と陸路をつなぐ交通の要所でした。江戸時代には京都大阪を結ぶ舟運の要衝として大変にぎわい、八軒の船宿があったことから八軒家浜と呼ばれるようになりました。そんな歴史ある八軒家浜の繁栄を現代に復興させ、「水都大阪」の顔となるランドマークとして発展させるべく、大阪水上バスはさまざまな発信を続けています。現在、八軒家浜は川と陸の結節点として水都大阪の舟運の拠点であり、※「中之島にぎわいの森づくり」の核となり、大阪ならではの水辺のにぎわいを創造しています。
- ※歴史ある「中之島」の水辺をみどりと遊歩道でつなぎ、橋や水辺のライトアップを行うことで、みどり豊かな空間の中ににぎわいを創出する大阪府の取り組み。
(大阪府ホームページより)
「川の駅はちけんや」から
水辺のにぎわいがゾクゾクと増殖中
「川の駅はちけんや」は、2009年、水都大阪のヒト・モノ・コトの交流拠点として誕生した、関西初の常設の川の駅で、都心でありながら開放的な水辺空間が広がり、レストランやSUP、ノルディック・ウォーキング、観光船のりばなど、水辺を楽しめる場所です。 ここでは大阪水上バスを中心に、様々なにぎわいづくり・交流づくりが行われていますが、その一つが、毎週水曜日の朝に開催している「はちけんや体操」です。これは、地域の皆さんとの交流や情報発信の場として設けたレンタルスペース「ステーション8」でヨガ教室を開設する先生に依頼し、オリジナルで作りあげたご当地体操です。SUPやノルディック・ウォーク、灯篭など八軒家浜ならではのアイコニックな動きを取り入れており、“ご当地健康体操100選”にも選ばれています。また、大阪府が推進する“アドプト・リバー・プログラム”の一環として、近隣の方々と一緒に花壇の整備も実践。これらの活動を通して地域にお住まいの方々と交流を深め、水辺に親しむくらしの魅力向上に努めています。一方で、桜の期間のお花見フェスタなど季節のイベントや「ステーション8」の運営を通じて水辺の美しさ、心地よさを広くアピールし、にぎわいづくりにつながる活動を進めています。


毎週水曜日の朝8:30から開催。続けるうちに交流が生まれ、地元の方や近隣のビジネスマンなど幅広い年齢層の老若男女が参加しています。

「みんなのお庭*八軒家浜」と称して、職場に向かう道の草花がいきいきしていたらいいなと、2013年に自然発生的に始まった活動。近隣有志の方々のコミュニティガーデンです。


八軒家浜の春の恒例イベント。桜・船・水辺の三拍子がそろう水都大阪を代表するお花見スポットでは、水辺アクティビティ、マルシェやレストランなど、桜を見ながら楽しめます。

川の駅はちけんやにあるノルディック・ウォーキングステーションでは、事前予約制でノルディック・ウォーク教室を随時開催。はじめての方にも指導員が丁寧にレクチャーします。
「ステーション8」にはミニキッチンも完備されており、ちょっとした食事会なども。
“水辺を訪れる”施策に加えて、最近では“水辺を使う”試みも積極的に展開しています。例えば、新たに開設したレンタルスペース「ステーション8」では、やりたいことを水辺で実現してもらったり、アイデアを持った方々に水辺を使って新しい事業に活かしてもらったりと様々な用途のプラットホームとして提供しています。また、水域は行政区間のため、使用に際しては各種申請や手続きが必要となります。そうした事務手続きを大阪水上バスが中心となって進めることで活動を全面的にサポート。水辺を借景にしたドローンショーを成功させたり、次世代につなげる水辺の最先端の取り組みの情報を発信したりと未来に向けての新しいサービスを次々と始めています。

「川の駅はちけんや」の
これからについて
- 松本さんは実際に「はちけんや体操」を指導されているそうですね。
指導なんて大げさなことではなく、皆さんの前に立って体操をしているだけなんですよ。2019年に始まってから、5年半ぐらい、雨の日以外はほぼ毎週開催しています。今では通勤途中のビジネスマンやお子さま連れのファミリー、ワンちゃんと散歩中の方にも加わっていただくなど、体操の輪は広がっています。特典の付くスタンプカードを用意しているのですが、体操後にはスタンプ押印に列ができるくらいでありがたいです。
また、私たちが大事にしていることは水辺でのくらしづくりです。だから地道なことも多いのですが、体操や花壇の整備を通じて顔馴染みができたら災害の際などにも心強いですよね。そんな水辺を核としたコミュニティづくりにも関わって、くらしの魅力向上に努めていきたいと考えています。
- 松本さんは10年、水辺のにぎわいづくりに携わっておられるとか。これからの展望を教えてください。
展望は二つあります。一つめですが、私たちの目指す最終着地点は、やはりいかに船に乗って楽しんでいただくかに尽きます。社名が“水上バス”ですので、皆さんに船に日常的に乗っていただくのが目標です。ですから、これからも引き続き水辺の楽しみを日常的に発信していきたいです。
大阪水上バス株式会社
事業部課長 企画宣伝担当
松本さん
そして二つめは水辺のにぎわいづくりですが、これは次世代にいかにつないでいくかが大事だと考えています。規制も多く、一筋縄ではいかない河川空間の活用について「何とか盛り上げたい!水都大阪のために!」という想いでこれまでたくさんの方が取り組んできました。この皆さんの苦労と情熱から生まれた経験と実績をどう発展させていくかが課題です。
そのためにも「ドローンショー」や都市型自動運転船「海床ロボット」のように次世代のにぎわいを
創造する方々にも加わっていただきつつ、仲間を増やしていきたいと思っています。
大阪・関西万博でお目見え。
水素燃料電池で走る次世代の船「まほろば」
八軒家浜から中之島にかけての大川と、大阪ベイエリアを運航する大阪水上バスは、2025年の万博イヤーの今年、夢洲で開催中の大阪・関西万博への水上運航も担っています。それが、岩谷産業株式会社が開発した水素燃料電池船「まほろば」です。「燃料電池」で発電する電気と「プラグイン電力」のハイブリッド動力で航行するシステムが特徴で、燃料電池にはクリーンエネルギーとして注目される水素と空気中の酸素のみを使用するため、運航時のCO2排出量はゼロ。カーボンニュートラルの実現に向けた一歩を踏み出しています。水素燃料電池の旅客船での運用は国内初であり、また、先進の船体デザインは世界的カー・デザイナーである山本卓身氏によるもので話題性にもこと欠きません。「まほろば」は環境にやさしく、燃料のにおいがしない、騒音や振動が少ないなど、これまでの船にはない快適な乗り心地も魅力です。



大阪水上バスの船舶運航経験と高い技術力が
「まほろば」の運航実現を支えました
大阪水上バスは、「まほろば」の運航を単に請け負うだけでなく、運航実現に至る過程においてもこれまでの経験と高い技術力を発揮しました。 実際の運航を想定して、安全面や運用面、お客さまの快適性の観点から船体に関してさまざまなブラッシュアップアイデアを提供。例えば、シンプルな鋼管の手すりが設置されたデッキには、お客さまが海上に落下する恐れがあるためにアクリル板を設置したり、メンテナンスしやすいようにエンジンルームのレイアウトを修正したりと、安全性や利便性、快適性を追求。操舵室においては、実際にモックアップを製作し、死角がないか等、機能面での問題を詳細にチェックしました。その上で、半年をかけて試験運航を実施、他の船との運航スケジュールの調整や航路調整、認可申請なども積み重ねて、「まほろば」の運航を無事に成し遂げました。大阪・関西万博への「まほろば」運航には、大阪の水上交通を担ってきた船のプロとしての大阪水上バスの誇りと、旅客の安全性を第一とする京阪グループの理念が込められています。

水上交通の可能性に挑む。
- 大江取締役はエンジンの専門家として「まほろば」の準備に関わられたそうですね。
実は岩谷産業さんからお話を頂戴したのは、船体の設計がほぼ済み、造船に移っていたフェーズでした。通常、新しく船をつくって運航する場合、準備期間を大まかに分けると設計に1/3、造船に1/3、運航計画に1/3といった時間配分になります。今回は2/3まで進んでいた状態で岩谷産業さんからお受けしましたので、船体の設計に関してはほぼできあがっている状態に対してリクエストするイレギュラーな形になりましたが、船内の設計に関する協議に参加し、設計・造船の領域に対して積極的に意見交換をさせていただきました。
- 大江取締役から見て「まほろば」の“他にない魅力”とは、どんなところでしょうか?
40年間ずっと船に携わってきましたが、「こんな体験は初めてだな」と驚くのが直接波の音が聞ける点です。船って普通はディーゼルエンジンなので振動があって結構な音がするんですね。ところが無音の「まほろば」では、出港時にプロペラが水を切って回る音までクリアに聞こえます。これは他の船では得られない体験です。振動もありませんので、静かに水上を進むなめらかな滑走感や風を切る音など自然とまるで一体になったような感覚を感じていただけるはずです。
大阪水上バス株式会社
取締役 船舶部長
大江さん
- 大阪・関西万博は水都大阪を世界にアピールできる絶好の機会です。これを契機に、今後、大阪水上バスはどのような未来をめざすのか。これからの計画や大江取締役が目指す将来像について教えてください。
大阪・関西万博に関しては、大阪水上バスの存在を世界の方に知っていただくチャンスになると思います。「まほろば」では市内と万博会場を結ぶ水上ルートをお披露目しましたが、「サンタマリア」でも海から万博会場を眺めるコースを運航しています。大阪は今後IR構想もありますので、それを機にもっと水上交通を盛り上げていきたいですね。個人的には、京阪神の港をつないで港同士がもっと自由に行き来できるようになれば水上交通の世界はグッと広がると考えています。かつては大阪港と神戸港をフェリーが結んでいました。しかし、現在は大阪の旅客船は神戸にはいけず、その逆もまたしかりです。京阪神の港の往来を実現させることができれば、水上からのまちづくりに対しても新しい潮流を生むことができます。まだまだトライしていない水上交通の可能性に、これからも挑んでいきたいですね。
水の都・大阪を巡る
アーバンクルーズなら大阪水上バスへ
大阪水上バスでは、通常運航として大阪城や中之島をいく「アクアライナー」、オープン船「アクアmini」、食事もできる「ひまわり」、大阪港を巡る「サンタマリア」と、水都大阪を満喫できる4つのクルーズをご用意しています。大阪観光の思い出に、あるいは、水都大阪の四季の移り変わりを水上から楽しむひとときに、ぜひご利用ください。




大阪水上バス株式会社 ホームページ
https://suijo-bus.osaka
2025年6月掲載