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2020年3月の再開発組合設立後、コロナ禍という逆境も乗り越えて推し進めた枚方市駅周辺地区第一種市街地再開発事業は、2024年に各施設が開業、2026年2月には北口駅前広場の工事が竣工しました。再開発前後で枚方市駅周辺がどう変わったのか、まちの課題は解決したのか、再開発前から枚方のまちづくりに携わってこられた摂南大学熊谷教授の進行のもと、さまざまな立場の方々による対談で再開発事業を振り返ります。

枚方への関わりとまちに抱いてきた思い

熊谷教授:私は関東の出身で90年代の終わりに関西に移ってきました。当時、私が枚方市駅に行くのは市役所で何か手続きが必要な時ぐらいで、用事が済めばすぐに帰っており、駅周辺に留まることはあまりなく、そっけない印象の駅でした。私がまちづくりに関わることになったのは、2013年頃に北大阪商工会議所で枚方市駅周辺まちづくりの検討を始める際に声をかけられたことがきっかけでした。そこから色んな事を勉強させていただきながら、ここまで来ました。
私にとってはそんな印象の枚方市駅でしたが、森藤さんは、地域の事業者としても、再開発組合の理事としても枚方市駅周辺のまちづくりに関わってこられましたが、開発前の印象はどんなものだったのでしょうか。

森藤理事:私が枚方市駅北口で眼鏡店を始めたのは1972年頃です。その頃京阪電車はまだ地上線で、北口と南口は駅で分断され、大阪寄りのたくさん線路のある長い踏切は、列車の合間に行き交う人であふれていました。平成に入り連続立体交差事業が完了して、高架下に京阪枚方ステーションモールがオープンした際には、テナントとして出店させていただきました。初めて北口と南口の流れがスムーズになったと喜びましたが、時が経つとともにやがて高架駅も駅ビルもすっかり古びて、若い世代のにぎわいも少なくなってしまったとお客さまともよく話していました。

摂南大学 理工学部都市環境工学科 地域環境計画研究室 教授 熊谷 樹一郎さん(くまがい きいちろう)

摂南大学
理工学部都市環境工学科
地域環境計画研究室
教授

熊谷 樹一郎(くまがい きいちろう)さん

熊谷教授:本来、駅を高架にした時点がまちを変える絶好のタイミングだったはずです。ただ、人口増加の時代には、それだけの人数をさばく立派なハードができたら十分で、そこで思考も手も止まってしまったんだと思いますね。続いて福本さん、行政の立場として、どのように枚方市駅周辺のまちづくりに関わってこられたのでしょうか。

福本課長:私が枚方市駅周辺のまちづくりに関わったのは、2010年の南口のバリアフリー化工事が最初です。その後、2017年に枚方市役所内に現部署が立ち上がってから、ずっと関わらせていただいています。今回の再開発事業は、土木・建築の技術的な側面から見てもかなり難易度が高く、都市計画手続きに入るまでの検討には、時間をかけていたと思いますが、やると決めてからは非常に早かったですね。

枚方市駅高架前の駅前周辺

■枚方市駅高架前の駅前周辺

熊谷教授:再開発を進める際には、いろいろな法令や規制が関係してきますよね。それらをクリアするために、何か行政として心がけられた点はありますか?

福本課長:法令や規制に関しては、私の部署の仲間や市役所内の関連部署等に協力してもらい整理をしました。自分としては、組合側でまとめられた案ができるだけ実現できるように組合と行政の間を調整する役割に注力しました。

熊谷教授:行政側に理解がないとやはり進みませんから、そうして間を取り持つ役割も大事ですね。では続いて、大浅田さん、鉄道事業者としては枚方市駅をどう変えていこうと考えておられたのでしょうか。

大浅田:学生時代、全国を旅して気づいたのが、どんなまちも必ず駅が中心にあるということでした。京阪に入社してからも、ずっと「まちにおける駅の役割とは何か?」を追い求めてきました。枚方市駅周辺の再整備は、私が入社した時点で既に構想があり、模型までできていました(「> PROGRESS 枚方市駅周辺まちづくりのこれまで」参照)。その後、なかなかまちづくりは進みませんでしたが、2013年、枚方市役所が「枚方市駅周辺再整備ビジョン」を策定され、そこに出てきたのが「活性化」というキーワードでした。人口が約40万人、駅の乗降人員も 10万弱もあるのに、皆が目指す「活性化」とは何なのか。そこを紐解くことから始めました。

枚方市駅周辺地区市街地再開発組合 理事 森藤 英樹さん(もりとう ひでき)

枚方市駅周辺地区市街地再開発組合
理事
株式会社モリト 代表取締役

森藤 英樹(もりとう ひでき)さん

熊谷教授:おっしゃる通り、すでにポテンシャルのあるまちがなぜ「活性化」していないのか、どう「活性化」させるのかを考えていくアプローチは重要ですね。

大浅田:まず、枚方市駅周辺の地形的な特徴を踏まえることにしました。「活性化=回遊性の向上」ではないかと考えたからです。枚方市駅のすぐそばには、丘陵や川があり、実は周辺にまちが広がりにくい地形なんです。一方で丘陵や川沿いに道路や交野線が放射状に延びていて、その中心にある枚方市駅は人が必ず集まってくる絶好のスポットです。この立地を活かし、駅からまちづくりを広げていくべきだと考えました。人口減少社会では、施設をつくることを目的とするのではなく、“まちの課題を解決する手段”としてまちづくりをやるべきではないかと。

熊谷教授:まさに、本質的なことをおっしゃいました。まちづくりって目的じゃないですよね。

大浅田:さらに、人口ピラミッドの特徴も分析しました。年齢別人口の全人口に対する比率で比較すると、全国に比べて枚方市は、団塊の世代とその子ども・孫世代は多く、一方でその間の20代後半~30代の比率が低く、赤ちゃん世代も全国よりも低いことがわかりました。つまり、若い世代が住みたい、訪れたいと思うまちを「一刻も早く」つくらなければ、このまま10年、20年経てば、恐ろしいほどの人口減少になるんじゃないか、そんな危機感を抱いたんです。

枚方市役所 市駅周辺まち活性化部 課長 福本 恭亮さん(ふくもと やすあき)

枚方市役所
市駅周辺まち活性化部
課長

福本 恭亮(ふくもと やすあき)さん

京阪ホールディングス株式会社 執行役員 大浅田 寬(おおあさだ ひろし)

京阪ホールディングス株式会社
執行役員

大浅田 寬(おおあさだ ひろし)

再開発によって生まれた変化

土地のルーツにこだわった京阪ならではのデザイン

■2021年1月頃の枚方市駅周辺

レールを再利用したベンチや、枕木を再利用した植栽

■2024年3月頃の枚方市駅周辺

熊谷教授:交通の結節点としては安全に機能している。けれど周辺に対しては、にぎわいをもたらせていなかったのは大きな課題です。そういう意味では、再開発がなかったらどうなっていたんだろうと少し心配になります。無事に再開発事業を成し遂げられた後のまちの変化についてお伺いします。森藤さんはいかがですか?

森藤理事:これまで分断されていた枚方市駅の南口と北口が枚方モールを中心に完全につながりました。東改札と中央改札との往来も増えたように感じます。駅を中心に人の回遊が生まれたことは大きな変化だと思います。

熊谷教授:駅を中心とした回遊が生まれたというのは大きな変化ですね。大浅田さん、何か裏付けるデータなどありますか?

大浅田:回遊性の向上については、駅前の人流データに顕著に表れています。これまでは平日の方が人の滞留が多く、しかも年齢層が高いのが特徴でしたが、再開発後は若者やファミリー層の滞在が平日よりも祝休日で10%前後多くなっているというデータがあります。全年代で比較しても、平日と祝休日の滞留人口がほぼ同じくらいになるまで、祝休日は上がっています。この滞留人口の増加は森藤さんのおっしゃっていた駅を中心としたまちの回遊性の向上を裏付けていると思います。

熊谷教授:まさに先程話していた地域の皆様の声や実際に街を歩いて感じる「にぎわい」といった体感が裏付けられる客観的なデータですね。駅直結の高層タワーマンションをすべて賃貸にするのは、かなり大きな決断だったのではないかと想像しますが、そちらの方の結果はどうだったのでしょうか。

大浅田:賃貸タワーレジデンス「THE TOWER HIRAKATA」の入居者の60%は枚方市外、50%は30代以下です。そもそも枚方市駅周辺に居住者が少なく、またファミリー層が居住できるマンションもないという課題を解決するため、居住者が固定化する分譲ではなく、賃貸にすることで若年層の流入による活性化を目指しましたが、ここまで若い世代に選んでいただけるとは思っていませんでした。どのようなコンセプトにすれば、まちの課題が解決できるかをずっと考え続けて取り組みましたが、さまざまな点で予想以上の結果が出ていると捉えています。

熊谷教授:それぞれのデータがまちづくりの効果を裏付けていますね。肌感とデータが一致しないことはよくあることなので、データも確認しなければ、まちづくりの効果が検証されたことにはなりません。また、データによる裏付けは今後のまちづくりにおいても、非常に重宝されると思います。

再開発によって生まれた変化
再開発によって生まれた変化

■賃貸タワーレジデンス「THE TOWER HIRAKATA」入居者の割合データ

賃貸タワーレジデンス「THE TOWER HIRAKATA」入居者の割合データ

森藤理事:あと、ホテルを入れることが再開発で一番実現したかったことですが、お客さまから子どもが枚方に帰省する際に利用したという話をよく聞き、まちの人が求めていたことを実現できているなと実感します。最近はさらなる要望を聞くことも増えてきて、それはまた今後の課題だと思っていますが、それはそれでよいことだと捉えています。

熊谷教授:念願のホテル建設が市民の方にもそれだけ受け入れられたならうれしいですね。さて、福本さんはいかがですか?行政として把握している何かデータなどありますでしょうか?

福本課長:はい。データとしては、固定資産税の増加が確認されていることと、市民の意識調査をご紹介します。③街区における2021年の固都税は4,000万円でしたが、再開発後の2025年には固都税が2億4,000万円と約2億円の増収となりました。また、定期的に市民の皆さんの意識調査を実施しておりますが、「市駅周辺が賑わっていると感じるか?」という質問に対して、ややそう感じる、そう感じると回答した人の割合が「ステーションヒル枚方」などのオープン後に20ポイントも増えています。特に若者世代は前年より30ポイント増加しています。

熊谷教授:変化がとても顕著なデータですね。皆さんがおっしゃっていた、「時が止まったままのまち」という状況が再開発で改善されたことは市民の方々も感じておられるということが分かります。

再開発によって生まれた変化

■枚方市駅周辺が賑わい、魅力あふれる中心市街地であると感じていますか?

枚方市駅周辺が賑わい、魅力あふれる中心市街地であると感じていますか?

福本課長:今回の再開発事業がまちを動かした事業だったんだとあらためて感じていますね。先ほど森藤さんが話されたように、できたものに対して次々とさらなる要望が出てくるほど枚方のまちは進んだんだなと、まだまだ伸びしろがあるんだなと実感します。

熊谷教授:確かに開発して終わりじゃなくなっています。皆さんが興味を持ち、関心を持って自分ごとのようになってきている証拠です。再開発がなければ、そんな要望も出てきていないので、枚方市駅周辺は次のフェーズに入ってきていると思いますし、要望は次のステップに対するエネルギーになります。

再開発によって生まれた変化

福本課長:また、全国からの注目度もすごいです。各自治体や国からも視察の依頼があります。あのコロナ禍を経て達成している再開発の好事例として、また、いろいろ国の制度を活用して実現させたのも参考にしたいとのご要望があります。

熊谷教授:再開発事業によって、よい変化をまちに生み出せているというのも注目されている理由の一つだと思います。目に見えないものを評価することは難しいですが、再開発事業を通して、まちの課題が目に見えて解決されつつあることで、ロールモデルとして次なるまちづくりの動きのきっかけになり、影響を与え続けるのではないかと思います。

これから取り組むべきこと

熊谷教授:さて、ハードが完成し、再開発事業が様々な変化をまちにもたらしました。そして次のフェーズになっていきます。森藤さんは次にどんなことが必要だとお考えでしょう?

森藤理事:私は『枚方HUB協議会』のシンポジウムや社会実験に参加させていただき、エリアマネジメントの重要性を学びました。「メガネのモリト枚方店」には再開発のパースが置いてあります。これはお客さまとの雑談の中で、まちづくりの面白さを話すためのものです。まちづくりをもっともっといろんな人に知っていただきたいと思い、活動しています。みんなが自分の事として活動することが大事だと思います。

熊谷教授:地域の一員である森藤さんが一人称でまちづくりを語っておられる、ということですね。それは素晴らしいことで、究極のシビックプライドと言えると思います。

大浅田:私は、森藤さんが店内でお客さまに再開発のパネルを見せて説明されている姿を拝見したことがあって、ものすごい感銘を受けました。これこそがまちづくりだ!って。そうした当事者の熱い想いを織り込むことができたからこそ、今回の再開発事業は成功したと思っています。

熊谷教授:確かに「想いを織り込む」ってすごく大事ですよね。今回の再開発事業では京阪さんが地域に深く入り込んでいって、大きな山をいくつも越え、その結果として京阪さん、行政さん、地域の方々が固い信頼関係のもとで繋がりました。私はこれが間違いなく今後にとっても大きな強みになると思います。福本さんとしては今後をどのように考えていますか。

福本課長:枚方市としては、引き続き、ハードも含めて枚方市駅周辺の再整備の実現に向けて取り組んでいきます。また、ソフト面では、新たな取り組みも始めています。この再開発事業をきっかけとして、現在、地域の皆さまなどとともに、天野川のさらなる活用に向けたワークショップに取り組んでいます。まだまだ形になるのかもわからないですけど、こういった取り組みを通じてさまざまな方々をつなぐのが役所の役割ですし、市民の皆さんとのコミュニケーションをもっと広げていけたらと思っています。

熊谷教授:市民を巻き込んだ催しは、色んな課題解決に必ずつながりますからがんばってください。では、最後に京阪さんとしては、今回の再開発を今後どのようにつないでいかれるのでしょう?

大浅田:ハードの整備だけでなく、ソフト面の“まちを育てるまちづくり”にも引き続き取り組んでいきます。先ほど森藤さんから話が出た「枚方HUB協議会」の未来ビジョンを実現するための団体として、「枚方LOOP実行委員会」を設立し、活動を開始しています。

熊谷教授:ハード整備は、目的ではなく手段のひとつですので次にはハードとソフトの循環が来るはずです。その時には大浅田さんがおっしゃった『枚方LOOP実行委員会』の活動も重要になってくるでしょう。活動の展開を私も楽しみにしております。

大浅田:少し話がそれますが、京阪は何もないところを切り拓いて線路を敷いた鉄道ではく、もともと豊かな歴史や文化を備えたまちがすでにあって、そこを縫うように電車を走らせた会社です。枚方なら枚方とそれぞれの地域性や歴史、文化を大事にしながら、時代の変化も取り入れつつ、さらには地元の方々が真に求めておられるものを引き出して、それらを上手に編み込んでいく、そんな編集力こそ長い歴史の中で京阪が求められてきたことだと再認識しました。この本質を踏まえた編集力を、今後も沿線のまちづくりに活かしていきます。> このコーナーの第3回で宮田理事長が「沿線を大切にするなら、これからのまちづくりでも枚方での取り組みのように地域の人と真剣に向き合って欲しい」とおっしゃいました。この言葉を肝に銘じて京阪沿線全体で取り組んでいきます。

熊谷教授:他の地域には、大資本の入った大規模なまちづくりなどもたくさんあります。しかし、枚方市駅周辺のまちづくりは、これまで話してきた通り、そうした大型開発とは一線を画しており、地域性や歴史性を踏まえながら、まちの中心である駅からまちづくりを進めて行こうと取り組まれています。それは非常に稀有な例で、これからの時代には重要なことです。皆さんの強い信頼関係と絆で、今後さまざまな形で“まちを育てるまちづくり”に取り組んでいただけたらと思いますし、この先10年、20年、50年後の枚方市駅周辺の姿に大いに期待しております。

今回の対談は「カンデオホテルズ大阪枚方」のレストランにて行われました

■今回の対談は「カンデオホテルズ大阪枚方」のレストランにて行われました

2026年3月掲載